01「発見がしづらい」+「治療がしづらい」膵臓がん
近年増加傾向にあり、罹患すると死亡率が一番高い癌である膵臓がん。
死亡率が高い原因は 「発見がしづらい 」+「治療がしづらい」ことが原因です。
第1:膵臓がんの死亡率が高い原因
発見がしづらい
膵臓は胃の裏側にあり、曲がりくねった細長い臓器です。膵臓がんの初期段階では自覚症状もない場合が多く、自覚症状が出現時には進行している場合が多いのが特徴です。
また、以下の検査においても、簡単に発見できるものではなく、発見がしづらい状況があります。
採血の腫瘍マーカー
早期の膵臓がんは腫瘍マーカーでは測定出来ないことが多いです。
超音波(エコー検査)
膵臓が体の奥にあるため超音波が届きづらく、どうしても不明瞭となりやすい部分があります。
CT/MRI検査
膵臓がんは殆どが乏血性の為、一般的な癌と比べ、がんの陰影が判断しづらい状況です。
MRI-DWI、CT-低管電圧等、膵臓がんの見逃し防止措置や読影医師が症例を多くこなすことが見逃しを減らします。
内視鏡検査
胃の通常の内視鏡検査では膵臓は観察不能です。超音波内視鏡という特殊な検査で行う必要がありますが、採算性が悪く、実施医療機関は非常に少ない状況です。
治療がしづらい
膵臓は比較的薄い臓器のため、癌が発生すると膵外に浸潤しやすく、周囲の重要な血管に浸潤したり、転移があれば手術できないことも多くあります。
このように膵臓がんは発見時に手術出来ない方が多く見られるほか、手術も難易度が高く、治療成績も全ての癌の中で最も成績の悪い癌です。
しかし、早期発見の小病変の場合には、最近は腹腔鏡下手術も行われるようになり、良好な成績が得られています。
第2:膵臓がんになりやすい人とは
膵臓がんになりやすい要因(危険因子)は、主に下記の7つが挙げられます。
該当する方は、定期的な検査受診をおすすめします。
また、これらに該当しない方でも50歳以上の2人に1人はがんになると言われていますので、年齢を重ねるごとに注意が必要です。

1 / 肥満
20歳代でBMIが30kg/㎡以上の肥満だった男性では、正常なBMIであった人に比べて膵臓がんの発生が3.5倍多かったという研究結果があります。 肥満は膵臓がんだけでなく、心臓病などその他の病気の危険因子でも ありますので注意をしてください。 また、一度は腹部精密検査の受診をお勧めします。
肥満の方の膵臓がん発症リスク
BMIの計算方法
BMI | 基準 |
---|---|
16.00未満 | 重度の痩せ |
16.00以上~17.00未満 | 中度の痩せ |
17.00以上~18.50未満 | 軽度の痩せ |
18.50以上~25.00未満 | 普通体重 |
25.00以上~30.00未満 | 前肥満 |
30.00以上~35.00未満 | 肥満(1度) |
35.00以上~40.00未満 | 肥満(2度) |
40.00以上 | 肥満(3度) |
BMIを計算してみよう!
身長体重を入力してBMIを計算してみましょう。
2 / 大量の飲酒
大量の飲酒が習慣化している方は慢性膵炎になりやすく、また慢性膵炎の方は膵臓がんになりやすいです。 毎日飲む習慣のある方、週に何度も接待などで外で食事をする方は、腹部の精密検査の受診をお勧めします。
「大量」の飲酒とはどのくらい?
3 / 喫煙
喫煙は膵臓がんだけでなく、肺がんなどその他の病気の危険因子でもありますので注意をしてください。
・非喫煙者に比べて喫煙者は膵臓がんの発病の危険性が約1.7倍
・喫煙の本数と膵臓がんが発生する危険性は相関関係がある。
・禁煙後10年以上経っても依然として膵臓がんの発生リスクは高いままである。
という報告があります。
また、一度は腹部精密検査の受診をお勧めします。
喫煙の方の膵臓がん発症リスク
4 / 糖尿病
糖尿病患者における膵臓がんの発症のリスクは糖尿病ではない人と比較して約2倍との報告があります。
特に注意をしなければならないのは、初期の膵臓がんが糖尿病を引き起こす場合がある点で、糖尿病発症の2年以内は膵臓がんの発症が多いとされています。
糖尿病と診断された場合は、膵臓がんが原因かどうか、検査を受けて確認することをお勧めします。
1)糖尿病の方の膵臓がん発症リスク
2)糖尿病の方が膵臓がんになってしまう危険度
糖尿病は膵臓がんの危険因子とされており、糖尿病患者全体では約2倍の危険度とされています。
これを糖尿病の罹患期間別に分解すると、以下の通りです。(引用 1.)
3)新たに糖尿病になった方がどの程度膵臓がんのリスクがあるかという点の研究結果
2年以内に糖尿病と診断された方で、その後18か月以内に膵臓がんになった方と、ならなかった方を比較した韓国からの報告があります。(引用 2.)
①~③のどれか1つでも当てはまった場合には、感度80.8%(80%超の方がいずれか1つ以上当てはまっていた)、特異度67.6%で膵臓がんを発症していたと報告されています。
特異度:健康な人において、検査で陰性と判断される割合 (真陰性率)
5 / 慢性膵炎
慢性膵炎の患者さんが膵臓がんを発症する危険性は6.9倍であったとする報告があります。慢性膵炎には腹痛などの症状があり、その多くはアルコールが原因です。注目すべきは、慢性膵炎発症後の比較的短い期間で膵臓がんが発生する リスクが高まるという報告があることです。
慢性膵炎になってしまった方は、定期的な腹部精密検査の受診をお勧めします。
慢性膵炎の方の膵臓がん発症リスク
6 / 膵臓がんの家族歴
癌は遺伝子の異常で引き起こされます。家族が膵臓がんになった人は、遺伝子を共有していることから、膵臓がんを発症する危険性がほかの人より高いと考えられています。近親者が膵臓がんである方は、定期的な腹部精密検査の受診をお勧めします。
近親者が膵臓がんになった人の膵臓がん発症リスク
7 / 加齢
50歳以上の方は上記1~6までの危険因子である、生活習慣病のリスクが高くなります。
生活習慣病にかかると、膵臓がんの発生頻度は増加します。
加齢による膵臓がん発症リスク
第3:膵臓がんのステージ別 5年以内に死亡される方の割合
膵臓がんはがんの死亡原因で男性4位、女性3位です。
死亡数が多いのは、 「発見がしづらい 」+「治療がしづらい」 ことが原因です。
平均するとステージ2とステージ3の間で発見されており、
罹患後5年以内に100人中87.9人の方がお亡くなりになってしまっています。
がんの死亡者数 上位1位~7位 (2019年)と5年生存率
全がん協部位別臨床病期別5年相対生存率 (2010-2012年診断症例) 2020/11/19改定 【膵癌の早期診断最前線】膵癌早期診断の現状―膵癌早期診断研究会における他施設研究の結果をもとに―膵癌登録報告 2007(日本膵臓学会)
全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020)